番外編:あの頃の俺と、今の俺
あの夜のことは、
今でも、はっきり覚えている。
黒い EG6 に、
下りでべったりと詰められて、
何もできずに終わった夜。
「……完敗だ」
そうつぶやいたあと、
しばらく車の中で動けなかった。

あの頃の俺は、
ほとんど毎晩のように峠に行っていた。
速くなりたかった、というより、
行かないと落ち着かない状態だった。
専門学校とバイトが終わると、
車をメンテナンスし、
夜になるのを待っていた。
今思えば、
走ることそのものより、
あの空気に依存していたんだと思う。
勝てば、その夜は気分が良かった。
仲間に褒められて、
名前を覚えられて、
「速い奴」として見られる。
でも、その満足感は、
次の日にはもう消えていた。
また次の相手を探して、
また次の勝負を探していた。
どれだけ勝っても、
全然満たされなかった。
正直に言うと、
あの頃の俺は、
冷静じゃなかった。
周りが見えていなかったし、
危険なことをしている自覚も、
どこか薄かった。
自分だけは大丈夫だ、
という根拠のない自信があった。
今思えば、
かなり自分勝手だったと思う。
今の俺は、
もう峠で走ることはしていない。
車は今も好きだし、
運転も好きだ。
でも、
あの頃みたいな走り方は、
もう自分の中にない。
危ないことだと分かっているし、
自分だけの問題じゃない、
ということも分かっている。
このブログは、
「あの頃は楽しかった」と
言いたくて書いているわけじゃない。
走り屋文化を広めたいわけでもないし、
誰かに真似してほしいわけでもない。
あの頃の自分が、
どんなふうにズレていったのか。
どんなふうに、
引き返せなくなっていたのか。
それを、
ちゃんと残しておきたかっただけだ。
もし、
このブログを読んでいる人の中に、
同じようなことをしている人がいたら。
俺は、
「やめろ」と説教するつもりはない。
でも、
少なくとも、
これは美化できる話じゃない。
EP01 から EP09 まで書いてきた話は、
すべて実体験だ。
フィクションは入れていない。
危険行為を肯定するつもりもない。
今の俺のスタンスは、
はっきりしている。
これからも、
過去の話は書いていく。
でもそれは、
「また走りたい」という話じゃない。
「あの頃、何がズレていたのか」を
自分なりに整理するための記録だ。
このブログは、
もう一度ギアを入れて、
人生を走り出すためのものだ。
過去に戻るためじゃない。
ここまで読んでくれて、
ありがとう。


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