Episode 04:1980年代の日本車に取り憑かれた少年
2025.12.11
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Episode 04:1980年代の日本車に取り憑かれた少年
自分がなぜここまでクルマに惹かれたのか、いまでもうまく説明できません。 けれど子どものころ、私はよく遠くへ走り去っていくクルマの後ろ姿を眺めていました。 まるで、まだ知らない世界をそのクルマたちが運んでいるように感じたのです。

中古車雑誌の向こうに、知らない世界が広がっていた。
父がタクシードライバーだったことも、きっと関係しています。 父のクルマはいつも家の前に停まっていて、夜勤から戻るエンジン音を聞くたびに、 「今日も無事に帰ってきたんだ」と安心できました。
1980年代の日本車――四角くて、シンプルで、どこか生命感のあるクルマたち。

直線的で、無駄がなくて、なぜか生き物みたいだった。
家の中は一見すると静かで普通の家庭でした。 しかしその下では、いつも何かが揺れていました。 不安定な空気が、ずっと家の奥で震えているような場所でした。
そんな環境の中で、クルマだけが「予測どおりに動いてくれる存在」でした。 クルマは嘘をつかない。怒鳴らない。責めない。 ただ、こちらの扱い方に正直に応えてくれるだけでした。
中古車雑誌を開くたび、私は誌面の向こう側に広がる世界を想像していました。 型式、排気量、馬力……意味もよくわからない数字をひたすら覚えていき、 その数字の列は、まるで自分の居場所を示す別世界の言語のようでした。
父はアルコールへ沈み、母は母で孤独と戦っていました。 同じ空気を吸っていた妹は、次第に感情が不安定になっていきました。
そんな家の片隅で、私は静かに――しかし確実に――クルマに取り憑かれていきました。
人が何かに強く惹かれる理由をはっきり説明できることは、そう多くありません。 でも一つだけ確かに言えることがあります。 あの頃の私にとって、クルマは間違いなく「救い」でした。
そしてその引力は、やがて私の人生の方向を決定的に変えていくことになります。

夕暮れ、遠ざかる車の背中を見ていた。
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