
「走る父」と「夢見る母」——それぞれの生き方の狭間で育った少年の物語。
エピソード02:父のタクシーと母のギャンブル
子どもの頃、父はいつもどこか遠くへ走っている気がした。
彼はタクシー運転手だった。
夕方になると出かけ、朝方に帰ってくる。
その時間、僕は眠りながら父のエンジン音を聞いていた。

母は昼間に働いていた。
仕事をこなし、家事もこなす強い人だった。
それでも、彼女にも小さな逃げ場があった。
仕事と家事の合間、パチンコに行っていたのだ。
パチンコは、海外の人には少し説明が難しい。
カジノのようで、でも少し違う。
無数の金属の玉が弾かれ、まぶしい光と音に包まれた場所。
人々は、数時間もその台の前に座り続ける。
お金ではなく「景品」を通して少しの希望を追いかける遊び。
母にとって、それはお金のためではなかったと思う。
騒音の中の静けさ——
何も考えずにいられる時間。
家族でも、仕事でもない自分に戻れる時間。

他の家の子が家族で出かけている時間、
僕の家には沈黙があった。
だから僕は車に惹かれたのかもしれない。
車は、どこへでも行ける自由の象徴だった。
今振り返れば、父も母も、それぞれの方法で生き延びようとしていたのだと思う。
父は「走ること」で、母は「夢を見ること」で。
だから僕も、きっとその両方を追っている。
走ることと、夢を見ることを。

🚗 次回予告
エピソード03:すべてを変えた車 ― AE86
近日公開予定。

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